日曜読書 そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学

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三年前に話題になった本を今更ながら読んだ.

本書は日本経済にデモクラシーが欠如している点を指摘し,日本で”左派”と称される方々が経済成長を軽視している点について批判している.三年経っても日本の状況は変わっていないように思えるので今でも参考になる(欧州については政策トレンドが変容しているかもしれない).憲法原発など人道主義に関する議論に終始し,実際的な貧困層の困窮について解決を目指さない日本の”左派”の問題についてわかりやすく解説されている.

三者の鼎談形式で文章が進むため,注釈や引用が少なく,深掘りやファクトチェックが困難である点は気になった.この手の社会に関する議論を書籍化したものではやはり定量評価に言及するのは困難に見えるし,皆がお気持ち表明してるように見えてしまうのは難点である.

 

いくつか気になったところや考えたこと

・成長戦略は必要か?緊縮財政or金融緩和?

完全雇用が達成されている場合は構造改革等を通した生産性の向上が必要だが,不景気でそれが未達成の場合は雇用の更なる不安定化を招く.完全雇用が未達成であり,経済成長の天井に到達していない場合は財政出動が必要があるが,現実には緊縮政策がとられている.特に日本は自国の中央銀行を有し,強気な財政出動が可能であるので,緊縮路線はやはり問題のように見える.MMTに代表されるこのような意見については,通貨の国際的信用が堕ちる限度がどこにあるかの定量評価がカギとなるように思えるが,そこまで勉強するのは疲れるのでやめた.

 

・英国のBrexit支持層について

長年の緊縮政策により打撃を受けた貧困地域ほどBrexitへの支持は厚かった.正直なところBrexitにより貧困層の暮らしが良くなる気はしないけど,都市部の中流以上の層に対するアンチテーゼとしての意味合いは大きいのだろう.

これは無根拠なお気持ち表明なのでただの備忘録だが,日本において大阪都構想への不支持・支持は大阪市内の南北で別れたのは英国と類似構造なのではないかと思う.大阪南部の比較的貧困な地域では公共事業等のコスト削減が叫ばれる都構想に反対し,富裕層の集まる北部では都構想案は人口に膾炙する.都構想の住民投票は過去二回ともに僅差で否決されているが,その様を北部の人間が見て南部の人間を無教養だと冷笑する構図も見受けられる(これは本書中でも言及のあるチャブ差別の構図とも関連がありそう).そもそも都構想の本質は公共のコスト削減にはないと思うのだが,現実的にそうなってしまってるのは三十年来の緊縮政策に染まってしまった人々の妄執のせいなのかね……(これも無根拠なお気持ち表明).

 

・「選択と集中」に際しての権限の非対称性

・日本の"左派"の経済議論への忌避感・リベラル層のバラマキへの忌避感の根幹はどこ?